星辰は巡る

 アマチュアライターとして、天文、軍事史、科学技術などに関するエッセイを書き連ねていきます。

太陽系近傍の星々への路

 アルファケンタウリまで4.3光年、シリウスまで8.6光年。そう聞いてピンとくる星好きの方は多いに違いない。太陽からこれらの恒星までの距離である。それでは、こちらはどうであろうか。アルファケンタウリまで13.0光年、シリウスまで5.2光年。実は、これらはプロキオンからの距離である。

 

 恒星間の距離は、恒星の赤経赤緯と太陽からの距離が分かれば、高等学校で学ぶ数学を用いて簡単に計算することができる。また、インターネットの普及により、各種の星表が研究機関から無償で公表されるようになって、専門家ならずとも、明るい恒星のみならず様々な恒星に対してこのような計算をすることが可能となった。NASAゴダート宇宙センターのHEASARC(高エネルギー宇宙物理科学アーカイブセンター)にアクセスしてみよう。そこでは、グリーゼ近傍恒星カタログ(Gliese Catalogue of Nearby Stars)を見つけることができる。この星表は、太陽から約81.5光年(25パーセク)以内の恒星について、位置や物理的特性をカタログ化したものである。これをダウンロードし、スプレッドシートを使って加工すれば、たちまちのうちに太陽系近傍の自家製の宇宙地図を作成することができるのだ。

 

 それでは、早速、太陽から1パーセク(32.6光年)以内の恒星を対象として、太陽からの宇宙航路図を作ってみよう。この宇宙航路は、10光年以内の恒星は直接繋がるという前提とした。また、ソーラータイプやそれ以上に明るい恒星を対象にした方が親近感が湧くため、K型主系列星以上の大きさの恒星を対象とした。(なお、太陽系近傍の宇宙地図としては、石原藤夫博士が、氏が執筆するSFの設定資料をまとめた形で、光世紀世界と名付けて出版したものがある。Amazonで調べたところ、中古で入手可能のようだ。)

 

 太陽から見て最も近いアルファケンタウリまでは4.3光年、10光年以内には他に8.6光年先のシリウスがある。アルファケンタウリとシリウスの距離は9.5光年となり、これら3つの恒星はお互いに10光年以内に近接した一つのグループとなる。この先は太陽からアルファケンタウリ方面に伸びる回廊とシリウス方面に伸びる回廊に分かれることとなる。

 

 まずシリウス方面を辿って行くこととしよう。シリウスから先は、プロキオンに向かう道と、エリダヌス座イプシロンを経由してクジラ座タウやエリダヌス座オミクロンに繋がる道に分かれる。シリウスからプロキオンまでは5.2光年、ただしプロキオンで行き止まりだ。また、エリダヌス座イプシロンくじら座タウ、エリダヌス座オミクロンは互いに10光年以内に位置するが、こちらもここで経路が途絶えることとなる。

 

 次にアルファケンタウリ方面を見てみよう。実は、こちらの方がシリウス方面よりも長く伸びる回廊である。アルファケンタウリからは、9.2光年先のインディアン座イプシロンを経由して、くじゃく座デルタとグリーゼ783に到達する。ここでもこれら三つの恒星はお互いに10光年以内の距離にあるグループを構成するが、くじゃく座デルタはより遠方のみずへび座ベータにも連なる。みずへび座ベータはこの周辺の恒星のハブとも言える存在で、くじゃく座デルタの他、きょしちょう座ゼータ、そしてエリダヌス座Pの合わせて3つの恒星とつながっている。更に、きょしちょう座ゼータは、新たにくじゃく座ガンマとつながり、またエリダヌス座Pも、エリダヌス座82番星とも連なる。なお、みずへび座ベータ、エリダヌス座P、きょしちょう座ゼータ、くじゃく座ガンマはそれぞれ太陽から24.3光年、25.5光年、28.0光年、30.1光年の距離にあることから、1パーセクを超えた領域ではほかの恒星に繋がる航路がある可能性はある。

 

 ここに挙げた星々の他、太陽に二番目に近い恒星系のバーナード星や、周回する惑星が地球型でかつ比較的安定した環境にあるとされているロス128など、太陽に近いM型主系列星にも興味深い恒星は多い。K型主系列星以上に限定せず、太陽近傍のすべての恒星を対象とした宇宙航路図を作成し、訪れる恒星系の情景を脳裏に浮かべながら恒星間旅行をシミュレーションしてみるのも一興であろう。